レンズケア
一日使い捨てレンズ以外はレンズケアが不可欠
ソフトコンタクトレンズ(SCL)であれハードコンタクトレンズ(HCL)であれ,一日使い捨てレンズ以外はレンズケアを行う必要があります.以下にSCL,HCL,特殊レンズに分けてケア方法を解説します.
SCLのレンズケア
- ①手洗い
- ②清潔な手指でレンズを外す
- ③こすり洗いでレンズ表面に付着した汚れやバクテリアを除去
- ④消毒
- ⑤保存
上記が一連の行程となります.①②のレンズ着け外しの際には手指を十分に洗って,余計なバイ菌をレンズに付着させないことが重要です.また,③の行程では必ずこすり洗いを行い,バイ菌や汚れをできるだけ取り除くすることが重要です.
⑤で用いる消毒剤は,「多目的製剤(マルチパーパスソリューション: MPS)」「過酸化水素製剤」「ポビドンヨード製剤」の3種類があります.
- MPS
MPSは,その名のごとく洗浄,保存,すすぎ,消毒の全てを1剤で行うことができる多目的の溶剤で大変便利です.たとえ目に入っても障害を起こさないように調整されているので,間違った使い方をしても目のトラブルは起きにくいです.ただし含まれている消毒剤の濃度が高いとは言えないので,他の製剤よりも消毒効果が弱いことは否めません.特に最近ではアカントアメーバというバイ菌に対する消毒効果が不足しているのではないかとの指摘も多く,安全性を重視するなら次に説明する2剤のどちらかを使用すべきです.
- 過酸化水素製剤
過酸化水素製剤は,過酸化水素(H2O2)の強い殺菌効果により消毒を行いますが,刺激が強いため,過酸化水素が付着したレンズをそのまま使用できません.中和といって過酸化水素を水(H2O)と酸素(O2)へ分解して無害化する行程が必要になります.この中和には6時間かかるため,完了するまではレンズを取り出して使用することはできません.この消毒法の利点は消毒効果が高いことですが,使い方を間違えると眼の障害をきたす可能性があるので注意してください.
- ポビドンヨード製剤
ポビドンヨード製剤も強い殺菌力を有し,アカントアメーバへの効果も十分です.しかし,溶液がオレンジ色であるため,そのまま浸けておくとレンズが黄色っぽく変色してしまいます.やはり中和を行って消毒成分を分解する必要があります.中和は錠剤一粒を入れるだけなので簡単です.また,中和用錠剤にはタンパク分解酵素も含有されているので洗浄効果も期待できます.メリットは高い消毒効果が得られることですが,デメリットとしては中和の完了まで4時間かかるという点と,中和後の液体には消毒効果がないためしばらく使用しない場合は再消毒が必要となる点が挙げられます.
HCLのレンズケア
- ①手洗い
- ②清潔な手指でレンズを外す
- ③こすり洗いでレンズ表面に付着した汚れやバクテリアを除去
- ④すすぎ
- ⑤保存
上記が一連の行程となります.消毒を必要としない点がSCLと異なります.HCL専用の洗浄保存液を用いますが,やはりこすり洗いを行う点が重要です.一般的なHCL用洗浄保存液には界面活性剤(洗剤)が含まれているので,こすり洗いをすることにより表面の汚れが良く落ちます.またバイ菌を除去する効果も大きくなります.頑固な汚れが生じた際には,アルコール含有の強力洗浄剤や塩素系の強力タンパク除去剤を併用します.通常のHCLケアは比較的簡便であり,そこまで神経質になる必要はありませんが,以下に解説する特殊レンズは構造が複雑であるため,特別のケアを行う必要があります.
特殊レンズのレンズケア
多段階カーブHCLやオルソケラトロジーレンズ,ハイブリッドレンズ,強膜レンズなどさまざまな特殊レンズがありますが,ここではオルソケラトロジーレンズを代表として取り上げます.オルソケラトロジーレンズは内面構造が複雑であり,特にリバースカーブと呼ばれる部位では溝状の構造が形成され,そこに付着した汚れは指先を使ってこすり洗いをしても簡単には除去できません.
その汚れがデコボコした凹凸を作り,ゴロゴロ感や角膜の傷の原因となります.汚れた部位にはバイ菌も付きやすく,角膜感染症を引き起こす可能性があります.
患者さんから回収したオルソケラトロジーレンズです。
A:リバースカーブのリング状の汚れが目立ちます.
B:全体的に白濁していますが,リバースカーブは特に汚れています.
オルソケラトロジーのレンズケア
洗浄は,付着した汚れはもちろんのことバイ菌の除去も目的としています.クリーナーを使ってこすり洗いをします.様々なクリーナーが市販化されていますが,いずれも主たる成分は界面活性剤(洗剤)です.食器を洗うときに洗剤を使用するのと同じようなイメージであり,単に水洗いするよりも汚れが落ちます.洗浄効果を高めるために研磨剤やアルコール成分を添加しているクリーナーもありますが,レンズ表面に親水性コーティングなど何らかの表面処理が施されている場合には,研磨剤によりコーティングが剥がれてしまうので注意が必要です.
界面活性剤含有の洗浄保存液(O2ケア アミノソラ®,メニコン) を用いてオルソケラトロジーレンズの白濁汚れを洗浄した結果を下記に示しますが,比較的軽い汚れであれば,この洗浄だけで十分に綺麗になります.
- 【OKレンズの白濁汚れを洗浄した実験結果】
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比較的軽い汚れ 界面活性剤こすり洗い前 界面活性剤こすり洗い前後 比較的軽い汚れはO2ケア アミノソラで十分除去できる。
がんこな汚れに対しては塩素系タンパク除去剤
正しいデイリーケアを励行していても,レンズの使用期間が長くなると固着(がんこな)汚れが出てきます.特にリバースカーブにリング状に付着した汚れは簡単には取れません.そこで注目されるのが強力洗浄剤(スペシャルケア)です.酵素系と塩素系の強力洗浄剤があり,月1~2回施行することが推奨されています.オルソケラトロジーレンズに関しては塩素系の強力タンパク除去剤であるプロージェント®(メニコン)の有効性が報告されており,本製剤の定期的な使用が好ましいです.
我々が行った実験においても,界面活性剤のこすり洗いで除去できない汚れに対して,プロージェント®は極めて強い洗浄効果を示しました.特に,リバースカーブに付着した頑固な汚れに関しては,本製剤による除去が好ましいと考えます.綿棒で擦り取るよりも確実でありレンズを損傷することもありません.
- 【頑固な汚れに対する各ケア用品の効果】
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頑固な汚れ 界面活性剤こすり洗い前 界面活性剤こすり洗い前後 塩素系タンパク除去剤処理後 界面活性剤だけでは取り切れなかった汚れもプロ-ジェントで完全に除去できた。
オルソケラトロジーレンズに消毒は必要か?
HCLはその構造上,バイ菌がレンズ内部で増殖することはないため,レンズ表面の付着汚れを除去・防止すればよいということになります.言い換えれば,十分な洗浄とすすぎを行えばバイ菌を排除できるので,SCLのようにレンズ全体を消毒する必要がありません.また,日本は水道水の品質が高いため,HCLのすすぎに水道水を用いても問題ないとされてきました.つまり,HCLに消毒を行う必要はないというのが従来の常識でした!
しかし,オルソケラトロジーのような複雑なデザインを有するレンズでは,付着した汚れは単純な擦り洗いだけでは落ちにくく,残存した汚れにバイ菌が付きやすくなるという悪循環に陥りやすいです.このような特徴を有するレンズを安全に使用するためには,従来必要ないとされていたHCLに対する消毒を積極的に取り入れることも有効な方策であるといえます.そこでオルソケラトロジーガイドライン第2版では「ポピドンヨード製剤による消毒を推奨する」との文言が盛り込まれました.
また,前述のプロージェント®に関して本邦では消毒効果は承認されていないが,強力な消毒効果を有することは既に証明されており,諸外国では消毒剤としても承認されています.プロージェント®の主成分は次亜塩素酸ナトリウム(0.2%)であり,キッチンハイター(次亜塩素酸ナトリウム6%)を希釈したものに近いです.洗浄・殺菌効果は非常に高く,海外ではレンズの強力タンパク除去+消毒剤として2週間に1回使用することが推奨されています.
また近年問題となっているCOVID-19ですが,結膜から感染する経路も知られており,コンタクトレンズの取り扱いやケアにも注意が必要となります.一方,COVID-19が器物の表面に付着した場合,次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)での消毒が有効であることが判明しています.つまり,プロージェント®はCOVID-19の消毒にも有効であり,万が一レンズにウイルスが付着したとしても殺滅することができます.
また近年問題となっているCOVID-19であるが,結膜から感染する経路も知られており,コンタクトレンズの取り扱いやケアにも注意が必要となる.一方,COVID-19が器物の表面に付着した場合,次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)での消毒が有効であることが判明している.つまり,プロージェント®はCOVID-19の消毒にも有効であり,万が一レンズにウイルスが付着したとしても殺滅することができる.
以上まとめますと,オルソケラトロジーでは①界面活性剤によるこすり洗いに加えて,②ポビドンヨード製剤(クリアデューO2®,オフテクス)でデイリーケアを行い,③プロージェント®(メニコン)で1~2週に一回は強力洗浄を行う3ステップでのケアが推奨されています.通常のレンズよりも大変ですが,安全に使用するために適切なケアをしっかり励行しましょう.
- デイリーケア
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1st step 界面活性剤によるこすり洗い 2nd step ポピドンヨード製剤による消毒(洗浄効果、たんぱく除去)
- 定期ケア(1~2週に1回)
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3rd step プロージェント®による強力タンパク除去(+無機質除去)
また,保存ケースを洗浄することも重要です.夜間就寝時は,保存液を捨ててケース内を自然乾燥させましょう.バイ菌は乾燥した環境が苦手で繁殖できません.さらに保存ケースを定期的に新品に交換することも有効です.3ヶ月に一回は新しいケースに取り換えましょう.
【執筆者】平岡 孝浩(筑波大学医学医療系眼科 准教授)