スペシャリティレンズ

ハイブリッドレンズ

従来の円錐角膜眼への屈折矯正

円錐角膜は不正乱視を呈しているためSCLでは良好な屈折矯正効果が得られない。したがって、球面カーブ1)、多段カーブ2)、カスタムカーブ3)といったHCLが屈折矯正の第一選択となり、通常2点接触、3点接触によるフィッティングがなされる。しかしながら、HCL特有の異物感、レンズ下への異物の侵入による角膜上皮障害、また、病期の進行に伴う角膜突出部とレンズ裏面の接触による角膜障害、疼痛、そして、外れやすいといった不具合が生じる。それに対して、SCLの上にHCLを装用するピギーバックレンズシステムが考案され、フィッティングの安定性と装用感の改善が得られたが、酸素透過性の低下や装用の煩わしさに問題がある4)。

強膜レンズは、強膜にアライメントにフィットし、レンズ裏面は涙液リザーブにより角膜に接触することなく眼球前部1/4を覆う大きなHCLで、装用感も良く屈折矯正効果も良好だが、国内未承認ゆえ入手困難で限定処方となる。またフィッティングにはある程度の熟練を要す5)。そこで登場したのが、やはり国内未承認ではあるが上記の問題点を一挙に解決するハイブリッドレンズである。

ハイブリッドレンズの適応と処方

ハイブリッドレンズは、中心部はRGP(rigid gas permeable)素材、周辺部はソフト素材といった異なるレンズ素材が重合することにより構成されている(図1)。したがって、本レンズは、SCLの装用快適性とHCLの良好な屈折矯正効果のメリットを兼ね備えている。
以下に日本未承認レンズではあるが、当院で処方しているLCS社製EyeBridTM Siliconeを例にハイブリッドレンズについて概説する。

図1. EyeBridTM Siliconeのレンズデザイン

図1. EyeBridTM Siliconeのレンズデザイン

a Dk値100のRGP素材とDk値50のシリコーンハイドルゲル素材を重合したボタンからレースカット製法にて作製される。
b レンズ周辺部:シリコーンハイドロゲル・ソフトレンズ・スカート、Dk値50
レンズ中心部:リジッドセントラルゾーン、直径 8.50mm、Dk値100
レンズ総直径 15.5mm

適応

ハイブリッドレンズが適応となる症例を以下に記す。

  • フィッティングが不良、装用感がわるいHCLの装用者
  • 円錐角膜をはじめとした不正乱視眼
  • すべての屈折異常(近視,遠視,乱視眼)
  • ピギーバックレンズ装用者

処方テクニック

一見、簡単そうに思える処方だが意外に奥が深い。従来の円錐角膜眼への処方と異なる点は、強膜部や眼瞼部にはレンズ周辺部を構成するSCL部分がフィットすることより2点接触や3点接触処方ではないという点である。処方のポイントは、処方交換を最小限にいかに効率よく処方し、いかに最高視力を出し、いかに快適で安全な処方をするか。の3点にある。図2に本レンズのパラメータを示す。

図2. EyeBridTM Siliconeのレンズパラメータと理想的なフィッティング

a ①ハード部分のBC(base curve): 涙液リザーブを調整する。第一選択トライアルレンズのBCは、Ave. K + 0.2 mmである。
②ハード部分のEL(edge lift):角膜に固着(impinging)しないよう、安定したフィティングと快適な装用感が得られるよう -1.3から+3.0の範囲で選択する。トライアルレンズは全てEL= Standard 0.0である。
③Skirt J:良好なレンズ・センタリングとレンズの固着を防止するためにその傾斜は-1.0(スティープ)から+1.0(フラット)まで5段階ある。
b-1 理想的なフィッティングの高分子フルオレセイン染色パターン。
b-2 フラットなELゆえELをマイナス(-0.5)へ(スティープヘ)。
b-3 スティープなELゆえELをプラス(+0.5)へ(フラットヘ)。
1)ハード部分のBC(base curve)の選択
apical touchによる角膜上皮障害が生じないよう涙液リザーブを調整する(図2)。スティープ・フィッティングでは上皮障害を起こしにくいがエッジ部分の接触や固着により異物感の原因や涙液交換不良の原因となる。また、レンズ下の涙液レンズによる遠視化で矯正視力も不良となりやすい。一方、フラット・フィッティングでは視力は出やすいが異物感や角膜上皮障害のリスクが高まる。第一選択トライアルレンズのBCは、Ave. K + 0.2 mmとされている。apical touchによるフルオレセイン・ステイニングが生じた場合は、BCをスティープにする。BC部のフィッティングは スティープ過ぎてもフラット過ぎても装用感は不良となる。
2)EL(edge lift)の選択
ハード部分のEL(edge lift)は、レンズが角膜に固着(impinging)しないよう、安定したフィッティングと快適な装用感が得られるよう-1.3から+3.0の範囲で選択する(図2)。トライアルレンズは全てEL= Standard 0.0である。

上記1)、2)のフィッティング調整は、涙液をフルオレセインで染色しスリットランプ下で観察することが必須である。しかし、トライアルレンズの周辺部はシリコーン素材であるため通常のフルオレセインでは色素が周辺部ソフトレンズに浸透してしまう。ソフトレンズ素材に浸透しない高分子フルオレセイン(Fluo Soft ®️)液をレンズ下に満たして装用し観察する必要がある(図3)。

図3. 高分子フルオレセイン(Fluo Soft ®️)

図3. 高分子フルオレセイン(Fluo Soft ®️)

ソフトレンズ素材に浸透しない高分子フルオレセインを生食水に溶解し、レンズ下に満たして装用しフィッティングを観察する。(あたらしい眼科 vol.38, No.2.2021, p171-2より)

3)Skirt Jの選択
Skirt Jは、ハード部分に続く周辺のソフト部分が角膜輪部から強膜部分にかけてアライメントにフィットし、良好なレンズ・センタリングとレンズの固着を防止するためにその傾斜を-1.0(スティープ)から+1.0(フラット)まで5段階で調節するものである(図2)。レンズの光学部(ハード部分)が常に瞳孔領を覆い、レンズが瞬目により0.25〜0.50mm動くことが調節の目安となる。また 前眼部OCT CASIA(TOMEY社製)のある施設では、そのフィッティングをビジュアルで観察することも可能である。トライアルレンズは全てJ=0.0である。

まとめ

フィッティング不良、装用感不良、不正乱視による矯正視力不良、そしてあらゆるCLユーザーに適応のあるハイブリッドレンズ(EyeBridTM Silicone)を紹介した。特に円錐角膜眼への処方には、最高視力を出し、角膜に障害を生じさせず、良好な装用感を得るためには、高分子フルオレセインを用いたBCとELとSkirt Jの調整が処方のポイントとなる。

参考文献
  • 東原尚代:III治療 コンタクトレンズ処方:球面ハード, どう診てどう治す?円錐角膜(島崎純,前田直之,加藤直子), 70-75, メジカルビュー社, 2017
  • 糸井素純:III治療 コンタクトレンズ処方:多段カーブハード, どう診てどう治す?円錐角膜(島崎純,前田直之,加藤直子), 76-83, メジカルビュー社, 2017
  • 森秀樹:III治療 コンタクトレンズ処方:カスタム・ハード, どう診てどう治す?円錐角膜(島崎純,前田直之,加藤直子), 84-92, メジカルビュー社, 2017
  • 佐野研二:III治療 コンタクトレンズ処方:ピギーバックレンズシステム, どう診てどう治す?円錐角膜(島崎純,前田直之,加藤直子), 94-97, メジカルビュー社, 2017
  • 吉野健一:III治療 コンタクトレンズ処方:強膜レンズ, どう診てどう治す?円錐角膜(島崎純,前田直之,加藤直子), 98-101, メジカルビュー社, 2017

【執筆者】吉野 健一(吉野眼科クリニック 院長)