スマートコンタクトレンズ
視力矯正の世界を超えたコンタクトレンズが開発されています。より新しくスマートなレンズは、医薬品の提供からデジタルディスプレイの世界にまで広がり、さらに新たな世界で活躍しようとしています。
例えば、以下のレンズがあります。
近視
近視の子供には視力の回復のために複数のレンズが使用されています。米国FDAは近視の進行を遅らせるためのソフトコンタクトレンズを2020年に承認しました。クーパービジョン社のMiSightがそれで、8歳から12歳の子供を対象にした毎日使い捨ての終日装用タイプです。これらは網膜周辺部の遠視性デフォーカスを軽減することで、オルソケラトロジー(オルソK)の角膜変形とは違う理論の上に成り立っています。
トランジションレンズ
光を抑えて快適性を高めるため日光の下で自動的に暗くなる(調光)レンズは既に市場に出ています。ジョンソン・エンド・ジョンソン社の光適応コンタクトレンズは日本でも承認されています。光環境に応じてレンズの色が変化し、眼に入る光の量を自動で調節するコンタクトレンズです。視界は暗くならず、見え方は自然で、気づかない間にも光は調節されています。
さらに近未来に目を向けると、以下の機能を持つレンズがあります。
アレルギーの方に
抗ヒスタミン薬を内包するコンタクトレンズはアレルギーで苦しむ人々を救済できるかもしれません。ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、目の痒みを軽減させる成分(ケトチフェン)をあらかじめ内包した使い捨てレンズを開発しました。このレンズからはケトチフェンが絶えず放出され、抗ヒスタミン薬の点眼を必要とする方の役に立つ可能性があります。
拡張現実レンズ
視覚ディスプレイを内蔵したスマートコンタクトレンズはロービジョンの方のために画像を拡大するように設計されています。Mojo Vision社が設計した特許取得済みのレンズは、スマートフォンからコンテンツを投影することができます。Innovega社は、どこにでもディスプレイを生成することが出来るソフトコンタクトレンズの開発に取り組んでいます。同社のiOptikシステムは運転、手術、軍事作戦などのハンズフリータスクの安全性を向上させることができると言っていますが、この技術はまだ消費者には届いていません。
角膜融解
角膜融解と呼ばれる状態の人の角膜を保護することができるコンタクトレンズはすぐに登場するかもしれません。研究者は、角膜から余分な亜鉛を除去することで病気の進行を停止することができる新しいハイドロゲルコンタクトレンズを開発しました。このレンズは、自己免疫疾患、化学火傷、または特定の外科的処置を受けた後に角膜融解を発症する人々を救うことができます。この新しいハイドロゲルは特許出願中です。
網膜の損傷を検出する
北京の科学者たちは、電極を取り付けた柔らかくクリアなコンタクトレンズを作成しました。レンズは、光に反応して眼の電気的活動を測定する被験者の快適性を向上させるように設計されています。電気レティノグラフィーと呼ばれるこの検査データを使用して、網膜に損傷を与える多数の眼の状態を診断します。この新しい技術をGRApheneコンタクトレンズ電極、またはGRACEsと名付けウサギやサルでテストしました。これまでのところ、現在の標準技術であるであるハードコンタクトレンズに取り付けられた電極よりも正確で快適に見えると言っています。
糖尿病と血糖値のモニタリング
韓国の研究者は、糖尿病患者の血糖値を監視するコンタクトレンズを開発しましたが,レンズは全く新しいアイデアというわけではありません。googleや他のハイテク企業も同様の研究をしています。しかし、本レンズの新しいデザインは、以前のレンズで問題になった不快感や信頼性の低さを凌駕しています。本レンズはソフト素材で,血糖値が不健康なレベルに達した時に患者に警告する緑色のLEDライトを有しています。しかし,残念ながら現時点ではまだ臨床試験には入っていません。
デジタル眼精疲労
クーパービジョン社の新しいコンタクトレンズは、デジタルデバイスの使用に関連する眼精疲労に対処するものです。バイオインフィニティ・エナジーは、複数の非球面曲線で設計されており、デジタルデバイスとオフライン活動の間で視線を移動する人々の目をよりよく適応させるのに役立ちます。さらに,レンズは眼表面に水分を保持するように設計されています。これは、瞬目の頻度が少ないVDT作業時にドライアイ対策となります。
緑内障
下記の2種類のコンタクトレンズは、緑内障治療薬を眼に供給する可能性をもっています。緑内障は、1日に複数回、複数の点眼が必要で,最悪のケースでは失明に繋がることもある怖い疾患にもかかわらず、必ずしもすべての患者が上手く点眼治療を継続できているわけではありません.
1)レオ・レンズ・テクノロジーは、FDA承認のビマトプロストを最大7日間目に放出するレンズを開発しましたが、まだ臨床試験に入っていません。
2)リトアニアの別のグループは、継続的に緑内障の薬を放出する溶解コンタクトレンズを開発しました。本NanoLensの技術は、薬物吸収を促進することを目的としていて、本技術は、2018年のシリコンバレー・イノベーション・チャレンジで2位を獲得しました。
SensiMed社のトリガーフィッシュレンズは、センサーが内蔵されたソフトコンタクトレンズで重症化する危険のある緑内障患者を特定するのに役立ちます。2016年にFDAの承認を受けています。このレンズは、角膜の形状の変化を測定することのできる埋め込みゲージを備えています。角膜は眼圧が高くなると引き伸ばされるのでその情報を患者の顔に装着された小さいアンテナに無線で送信します。アンテナはポータブルレコーダーに情報を送信し、その情報により医師は眼圧の変化を監視することができるのです。
バイオノード社は、緑内障を治療するための金でトレースされたコンタクトレンズとメガネの組み合わせによるiOPTxシステムを開発しました。本システムは、眼圧を低下させるために電磁刺激を使用しています。本臨床試験は現在スペインとカナダで進行中です。
スマートフォンによる制御
サムスン社の開発中のスマートコンタクトレンズは、スマートフォンをリモートで制御することができます。同社はモーションセンサー付きレンズを設計する特許を米国で取得しました。センサーは、瞬目による周辺視力を使用してデバイスを指揮することを可能にしました。サムスン社はまた、レンズが直接ユーザーの目に写真やビデオを映し出す技術も開発中ですが、この技術の市場参入は数年先といわれています。
望遠鏡レンズ
カリフォルニア州と中国の研究者によって、瞬く間にズームイン/ズームアウトできるソフトコンタクトレンズのプロトタイプを開発しました。これはいつか黄斑変性症のような網膜に障害を持つ人々のために画期的な変化をもたらす可能性があります。研究チームは現在、眼の中に収まるように伸縮レンズの小型化に取り組んでいます。スイスの別のチームは、拡大機能をもつ望遠鏡コンタクトレンズプロトタイプを開発しました。
創傷治癒
オーストラリアでは角膜潰瘍をより早く治癒させるコンタクトレンズの開発に取り組んでいます。この技術は、コンタクトレンズと角膜移植で使用しなかった角膜細胞を組み合わせたものです。細胞は創傷治癒を促す因子を放出します。研究者は、これらの細胞は、現行の治療よりもより消炎作用があり,この技術が確立されれば,一貫し容易に利用できる方法となることに期待をしています。レンズはまもなく人に応用される段階にまできていますが、一般の治療方法として患者が利用できるようになるまではまだ年月を必要とするようです。
【執筆者】二宮 元(魚町眼科 院長)