スペシャリティレンズ

多焦点ソフトコンタクトレンズ

多焦点ソフトコンタクトレンズとは?

近視抑制の方法としては,オルソケラトロジー(以下,オルソK)が圧倒的に多く用いられています.しかし,オルソKには矯正可能な近視度数に限界があり,オルソケラトロジーガイドラインでは原則-4.00Dまでと規定されています.

よって,既に適応度数を超えた近視の強い子供には別の手段も必要となります.多焦点ソフトコンタクトレンズ(以下,MF SCL)は制作度数の範囲が広く,通常のCL診療の延長上に取り入れることも容易です.欧米では近視抑制手段としてMF SCLの処方割合増加傾向にあり,米国では2018年にその処方割合が逆転したとの調査報告もあります1).

世界と日本の近視抑制治療の普及状況率

近視人口は世界中で増加しており,特に有病率が高い東アジア地域の中国,台湾,シンガポールなどでは国策として近視抑制治療に力を入れていますし,欧州,豪州,北米でも近視抑制治療は実臨床に組み込まれ始めています.日本の現状はというと,オルソKの取り扱い施設ですら未だ数%にすぎません.ましてや近視抑制治療としてMF SCLを処方している施設はごく僅かだと推測されます.子供へのMF SCL処方が進み難い一因には,児童にSCLを処方することに対する処方者側の戸惑いがあるのかも知れません.子どもが自分自身でSCLの装脱が出来るかどうかの懸念ですが,野球やサッカー,ダンスなどで眼鏡が煩わしいと感じている子供はSCL装用への意欲があり,案外スムーズにSCLを取り扱えるようになります.また子供へのSCL処方は親の管理下に置きやすく,むしろ若者への処方より安全だというデータもあります2).

多焦点ソフトコンタクトレンズの種類

二重焦点 (Bifocal) タイプ

Allerらは2000年頃から老視用Bifocal SCLの近視抑制効果研究報告を行い始め, 直近では2016年に1年間のランダム化比較試験にてBifocal SCLはSV SCLに比べ屈折値・眼軸長ともに70%以上,近視進行を抑制したと報告しました3).Ansticeらも独自デザインBifocal SCLとSV SCLを比較し,50%(眼軸長)の抑制率を示しています4) .

MiSight®はは屈折度数-0.75~-4.00D(等価球面値),乱視度数0.75D以下の病的近眼ではない治療開始年齢8~12歳の小児を適応としています.MiSight®は単焦点SCL(以下,SV SCL)と比較し3年間で52%(眼軸長)の近視抑制効果が報告されており5),近視抑制治療用コンタクトレンズとして,世界で初めてCE marking(EU圏内にて安全性能基準を満たす製品に与えられる表示)を取得しました.2019年末に米国で初めてFDA (U.S. Food and Drug Administration)の承認を,2021年には中国でもNMPA(The Chinese National Medical Products Administration)の承認を得ました.

このような世界の動きに随分出遅れてしまいましたが,日本でも2021年末より臨床治験が開始され,日本初の近視抑制治療用コンタクトとして承認を得ることが期待されています.MiSight®は現在のところ、米国、カナダ、英国、フランス、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、スイス、北欧地域、チリ、イスラエル、シンガポール、マレーシア、香港、台湾,オーストラリア、ニュージーランドなど多くの国々で承認を受け販売されています.MiSight®の光学デザインの特徴ですが,老視向けのAcuvue® Oasys for Presbyopiaに比べると,Misight®は中心の遠用部分は広めになっており,以降,遠用部分と近用部分が交互に繰り返すデザインになっています.光学部全体も広く,瞳孔径の大きい若年の装用を意識した設計になっていると推測されます.

Defocus Incorporated Soft Contact lens (DISC lens)は香港理工大学(The Hong Kong Polytechnic University,略称PolyU)が開発したもので,遠見矯正領域と+2.50D加入された領域が,0.25mm幅で交互に9層配列された構造となっています.SV SCLと比べ27%(眼軸長)の近視抑制効果が報告されています6) .

二重焦点 (Bifocal) タイプ

年輪状(Annular Rings design)タイプ

様々な度数が年輪状(Annual rings)に配置され,焦点深度の拡張効果や遠視性軸外収差の減少効果を狙ったデザインになっています.NaturalVue® Multifocal 1Day7)は中心遠用で,中心から3.5mm付近にかけて累進的に+3.00D加入され,その外側で急峻に加入が減少するデザインとなっており,この加入がEDOF効果を生むとされています.Meniconが欧州で販売してる近視抑制治療用SCLであるMenicon BloomTM Dayは,NaturalVue®のOEM商品です.

MYLO®はオーストラリアのBrien Holden Vision Institute (BHVI)にて開発されたEDOF-SCL8)のデザイン提供を受けた製品で.SV SCLと比較し2年間で32%(屈折値),25%(眼軸長)の近視抑制効果を認めています.SEED 1DayPure EDOF (Mid)も, BHVIよりMYLO®と同じデザインの提供を受けて作られています.つまりMYLO®とSEED 1DayPure EDOF (Mid)は,素材は違いますが全く同じpower profile (度数分布)を持った製品です .

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累進屈折型(Peripheral Additions)低加入タイプ

不二門らは低加入(+0.50D)かつ光学中心を鼻側に偏位させ,中心から3.5mmより周辺は度数を一定(Flat)にしたデザインのMenicon Duoを用いた臨床研究を行い,SV SCLに比べ47%(眼軸長)の近視抑制効果を報告しました9).裸眼時,Menicon Duo装用時,SV SCL装用時の軸外収差に差は無かったため,その近視抑制機序は軸外収差理論のみでは説明がつかず,調節への影響など別の機序が働いた可能性も推測されました.低加入CLは見え方の質に影響を与え難く,また,通常のSV SCLと同じ感覚で処方できるという利点があります.

累進屈折型(Peripheral Additions)低加入タイプ

累進屈折型(Peripheral Additions)高加入タイプ

Sankaridurgらは累進屈折型MF SCL(中心遠用 +2.00D加入)と眼鏡を比べ,33%(眼軸長)の近視抑制効果を報告し10), Wallineも同タイプの累進屈折型MF SCL(Proclear® multifocal ”D” add+2.00D)がSV SCLに比べ29%(眼軸長)の近視抑制効果あったと報告している11).近視抑制の機序がオルソK同様の遠視性軸外収差抑制効果なら,理論的には加入度が高くなるほど遠視性軸外収差を減らすことが出来きると推測されます. 2020年にWallineらBLINK Study Groupはランダム化臨床試験を行い,高加入度(+2.50D)>中加入度(+1.50D)>単焦点の順で近視が進みにくかったと示しています12).このタイプのMF SCLで,現在本邦にて入手可能なのはBiofinity® MF SCLのみです.Biofinity® MF SCLの度数分布を図に示します13).高加入になるほど見え方の質は低下してしまいますが,明らかに急速に近視進行がみられる長顔軸の症例には高加入タイプが必要なのかも知れません.

累進屈折型(Peripheral Additions)高加入タイプ

Flat SV SCL

SV SCLといっても製品によって度数分布は様々で,何気に処方しているSV SCLが,近視進行に影響を与えている可能性があります.

2009年にBlackerらは,中央から光学部周辺まで度数がほぼ一定のSCL (以下,Flat SV SCL)のAir Optix® Night and Day(以下N&D)は他のSV SCLに比べ有意に近視進行を抑制したこと報告しました.しかも,若者ほどその促成効果が顕著であったとしています14).就寝時装用および最長30日間の連続装用が認められていたN&Dですが,日本では既に販売が終了しており,Air Optix® EX Aquaがその後継です.恐らくEX Aquaも類似の光学デザインだと推測されますが詳細は公表されていません.

Flat SV SCL

-6.00D表示の3種のSV SCLの度数分布を比較したものですが15),SV SCLといっても度数分布にかなり差があることが判ります.近視度数の強い球面単焦点SCLは,近視抑制治療に用いられる中心遠用の累進屈折MF SCLと逆パターンの度数分布となっており,瞳孔径の大きい若者では遠視性軸外収差の増加により,近視の進行を促してしまう可能性も考えられます.

まとめ

小児の近視をみたら、眼鏡調整に終始するのではなく治療すべき時代が来ています.オルソKに加え,MF SCLという選択肢も積極的に活用することで,治療の適応範囲は広がります.日本は米国に次ぐ世界第2位のCLマーケット市場でありながら,近視治療への応用では世界に出遅れてしまいました.しかし今後,日本でも近視抑制治療用として承認を受けたコンタクトレンズが登場し,CLを活用した近視抑制治療が標準化されてゆくでしょう.

参考文献
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  • Mark A. Bullimore. The Safety of Soft Contact Lenses in Children. Optom Vis Sci. 94: 638–646, 2017
  • Aller TA,Liu M,Wildsoet CF:Myopia Control with Bifocal Contact Lenses.A Randomized Clinical Trial.Optom Vis Sci 93:344-52,2016
  • Anstice NS,Phillips JR:Effect of dual-focus soft contact lens wear on axial myopia progression in children.Ophthalmology 118:1152-61,2011
  • Chamberlain P,Peixoto-de-Matos, SC,Logan NS et al:A 3-year Randomized Clinical Trial of MiSight Lenses for Myopia Control.Optometry and Vision Science 96:556-67,2019
  • Lam CSY,Tang WC,Tse DYY et al:Defocus Incorporated Soft Contact (DISC) lens slows myopia progression in Hong Kong Chinese schoolchildren: a 2-year randomised clinical trial.Br J Ophthalmol 98:40–45,2014
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  • Walline JJ,Walker MK,the BLINK Study Group et al:Effect of High Add Power, Medium Add Power, or Single-Vision Contact Lenses on Myopia Progression in Children. The BLINK Randomized Clinical Trial.JAMA 324:571-580,2020;
  • Kim E,Bakaraju RC,Ehrmann K:Power Profiles of Commercial Multifocal Soft Contact Lenses.Optom Vis Sci 94:183-196,2017
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【執筆者】二宮 さゆり(伊丹中央眼科 院長)