スペシャリティレンズ

スペシャリティレンズ総論

スペシャリティレンズとは?

近視や乱視,遠視などの屈折異常を矯正するためのコンタクトレンズは,「標準(スタンダード)レンズ」や「従来のレンズ」と称されるのに対して,特殊な用途で用いるレンズや個々にカスタマイズされたレンズを「スペシャルティレンズ(specialty lens: SL)」と呼んでいる.

例えば,円錐角膜に伴う不正乱視が原因で通常のSCLや球面HCLでは十分な視力が得られない患者でも,多段階カーブHCLを用いたり,強膜レンズや特殊デザインSCL,ハイブリッドレンズなどを用いると日常生活が可能となるレベルの視機能を獲得することができる.また,SCLにあらかじめ薬剤を染み込ませ,装用後に徐放させることにより治療効果を得ようとする試み(ドラッグデリバリーシステム)や.学童の近視進行抑制を積極的に図るためのレンズ(オルソケラトロジー,多焦点SCL),生体モニタリングを目的としたレンズ(眼圧の24時間測定)など,その目的や用途は多岐にわたる.以下に代表例を挙げる.

不正乱視(円錐角膜,ペルーシド辺縁角膜変性,外傷後,レーシックなど屈折矯正手術後,エクタジアなど)の矯正を目的としたSL

  • 多段階カーブHCL(メニコンローズK™など)
  • 強膜レンズ(スクレラルレンズ,セミスクレラルレンズ,ミニスクレラルレンズなど)
  • 特殊デザインSCL(KeraSoft® ICやユーソフト®,高次収差制御SCLなど)
  • ハイブリッドレンズ(EyeBrid ® Siliconeなど)
  • ピギーバック法

HCL不耐症に対するSL(装用感の改善を図ったSL)

  • 特殊デザインSCL(KeraSoft® ICやユーソフト®など)
  • ハイブリッドレンズ(EyeBrid ® Siliconeなど)

Quality of visionの向上を図るSL

  • カスタマイズSCL(高次収差制御SCLなど)
  • 調光機能を有するレンズ(アキュビュー® オアシス® トランジションズ スマート調光™など)
  • 先天無虹彩や外傷性虹彩欠損に対する虹彩付きレンズ(シード虹彩付ソフトなど)
  • 調節機能を有するSCL(視距離に応じて厚みが変化するレンズ)

主に治療を目的としたSL

  • 重症ドライアイに対する強膜レンズ(サンコンKyoto-CSなど)
  • ドラッグデリバリーシステム(ワンデー アキュビュー® セラビジョン® アレルケア®など)
  • 角膜保護目的の治療用SCL(メダリストプラス®など)

近視進行抑制を目的としたSL

  • オルソケラトロジーレンズ
  • 多焦点SCL(MiSight®など)
  • 焦点深度拡張型(EDOF)SCL(MYLO®,NaturalVue™ Multifocal 1 Day,Menicon Bloom Day™,シードワンデーピュアEDOF™など)

整容的な改善を目的としたSL

  • 角膜混濁に対する虹彩付きレンズ(シード虹彩付ソフトなど)
  • 斜視に対するプリズム入りコンタクトレンズ(開発中)

生体のモニタリングを目的としたSL

  • 眼圧変動をモニタリング(トリガーフィッシュ®システムなど)
  • 血糖測定機能付きレンズ(スマートコンタクトレンズ開発)

上述のように近年のSLの進歩や多様化は著しい.レンズ素材自体の(物理的・化学的)進化のほか,コンピュータ制御の切削およびモールド技術の発展,さらには波面光学の進歩や超小型電子チップの開発などに伴い,従来は実現できなかった様々な機能を有するレンズが作成可能となった.

今後も益々発展していくことが予想されるが,残念ながら本邦では承認レンズが極めて少ない.海外からの情報も豊富とは言えない.加えて,この領域に携わっている医師やコメディカルも少なく,研究者や専門的知識を有する人材も乏しいと言える.本研究会が本邦のSL発展や底上げのための起爆剤となることを願ってやまない.

【執筆者】平岡 孝浩(筑波大学医学医療系眼科 准教授)