コンタクトレンズと感染症

コンタクトレンズと感染症

概念・定義

コンタクトレンズ(CL)装用者に認められる角膜感染症は、CL装用の重篤な合併症で、治療が遅れると原因病原体によっては、高度な視力低下につながる。

疫学

角膜感染症の契機の中でCL装用は多く、特に若年者ではCL装用に関連して発症している1、2。近年、コンタクトレンズ装用者に認められた角膜感染症のうち、最終視力が0.1以下、角膜穿孔あり、角膜移植術を施行した症例は42症例あり、CL装用の合併症で角膜感染症は視力低下を引き起こしうることが明らかになった。

診断と検査

診断は後に述べる臨床所見を正確に読みることに加えて、角膜より原因病原体を検出することである。角膜炎の病巣部を擦過することで、検体を採取し、塗沫標本を作製し、鏡検するとともに、細菌・真菌培養を行い、角膜から原因菌を分離することで、診断に重要な情報を与えてくれる。しかしながら、角膜擦過物を非常に微量であることから、培養の検出感度も高くない。さらに、常在細菌の存在もあるため、分離菌を原因菌とするには、菌量や塗沫標本検査との相関を見ながら総合的に判断する必要がある。アカントアメーバに関しては、塗沫標本検査にて、栄養体や2重壁の構造をもつシストを検出し、また、大腸菌塗布寒天培地に擦過物を接種し、常温で長期間培養することで、アカントアメーバを分離する。ヘルペス性角膜炎に関しては、臨床所見で診断することが多いが、PCRなどの遺伝子検査や抗原検出法が有用な場合も多い。

病因、病態、臨床所見、治療

CL関連角膜感染症を引き起こす病原体上位として、ブドウ球菌、緑膿菌、アカントアメーバがある。それぞれの病因、病態、臨床所見、治療を述べる

ブドウ球菌角膜炎

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌による角膜炎はCL装用やステロイド点眼などの眼表面の易感染状態に伴い日和見感染的に角膜炎を発症する。境界明瞭な類円形の小膿瘍を形成し、前眼部の炎症は軽度である。

一方、黄色ブドウ球菌による角膜炎は長期入院や施設入居中の高齢者、アトピー性皮膚炎、ステロイドや抗菌点眼薬の長期使用者などを背景に眼表面の易感染状態が絡んで角膜炎を発症する。角膜所見は、典型的には類円形の膿瘍を呈するが、角膜移植後や瘢痕性角結膜上皮症など、もともと眼表面疾患を有する症例が多いため、非典型例も多い。治療はフルオロキノロン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬の点眼が有効であるが、メチシリン耐性のブドウ球菌に関しては、フルオロキノロンに抵抗性を示す場合も多く、バンコマイシンやアルベカシンの自家調整点眼を使用する。

図1.CL装用者に認められたブドウ球菌角膜炎

CL装用者に認められたブドウ球菌角膜炎

緑膿菌角膜炎

緑膿菌はCL関連細菌性角膜炎の主要起炎菌である7)。典型的には角膜中央に濃い輪状膿瘍と周囲の角膜実質のスリガラス状混濁を呈し、初期を除いて前房蓄膿が認められる(図2)。治療はフルオロキノロン系および、アミノグリコシド系抗菌薬の点眼を用いる。

図2.CL装用者に認められた緑膿菌角膜炎

.CL装用者に認められた緑膿菌角膜炎

アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバ角膜炎は、水場に生息しているアカントアメーバによる角膜感染症で、CL装用や外傷を誘因として発症する。アカントアメーバ角膜炎の臨床所見として、初期では角膜上皮下の多発性浸潤として発症する。さらに、特異的とされる所見に、放射状角膜神経炎と呼ばれる角膜神経に沿った淡い浸潤がある(図3)。

図3.CL装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎

CL装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎

また進行すれば円板状の角膜炎を呈し、薬物に抵抗性を示すと角膜穿孔を起こす場合もある。時に、角膜ヘルペスとの鑑別が重要で、微生物学的検査を行うことで鑑別する。アカントアメーバ角膜炎の治療は、アメーバに対して著明に効果を示す薬物がないため、現時点では、角膜病巣部の掻破を行い、アメーバを物理的に除去することが最も重要である4)。

抗真菌薬のアカントアメーバに対する効果はin vitro においては証明されている5)6)。しかしながら、抗真菌薬はアカントアメーバの栄養体には効果があるが、シストに対しては効果が低いため、シストに有効と考えられているPolyhexamethylene Biguanide (PHMB) やクロルヘキシジンなどの消毒薬の点眼を併用する。局所投与においてはボリコナゾールなどのアゾール系薬剤の局所投与が有効であるが、ポリエン系であるピマリシンが有効であるという報告もある。全身投与においてはアゾール系薬剤(ボリコナゾール)の投与が有効な場合もあり、全身的に投与可能な場合は投与したほうがよいと考えられる7)。

文献
  • 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ : 感染性角膜炎全国サーベイランス-分離菌・患者背景・治療の現状―. 日眼会誌 110 : 961-972, 2006.
  • 宇野敏彦, 福田昌彦, 大橋裕一, 他 : 重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査. 日眼会誌 115 : 107-115, 2011.
  • Shigeyasu C, Yamada M, Fukuda M, Koh S, Suzuki T, Toshida H, Oie Y, Nejima R, Eguchi H, Kawasaki R, Nishida K; Research Group of Severe Contact Lens-associated Ocular Complications.Severe Ocular Complications Associated With Wearing of Contact Lens in Japan. Eye Contact Lens. 2021
  • 石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,1991
  • Elder MJ, Kilvington S, Dart JK.:A clinicopathologic study of in vitro sensitivity testing and Acanthamoeba keratitis, Invest Ophthalmol Vis Sci 35:1059-64,1994
  • 田原和子, 浅利誠志, 下村嘉一: Acanthamoeba cystに有効な治療薬剤の検討、感染症学雑誌 71:1025-1030,1997
  • 感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン。日本眼科学会雑誌111:769-809, 2007.

【執筆者】鈴木 崇(いしづち眼科/東邦大学医療センター大森病院)